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賽銭泥棒で計400万円を盗んだ男…他人事のように答えていた裁判中に突然泣き出した話題とは【裁判傍聴記】

「2年半で1000回以上やって400万円以上盗んだと思う」

令和8年7月3日、大分地裁。窃盗罪に問われている被告人(38歳)は答えた。

男が1000回以上やったと供述する窃盗は賽銭(さいせん)箱から金を盗むというシンプルな方法だった。

賽銭泥棒の裁判は過去に何度も見ているが被害額は数千円、多くても数万円が相場であり、400万円以上という数字に驚いた。またその方法を聞くと、棒の先にガムをくっつけて賽銭箱に突っ込むという単純な犯行であった。住所不定、無職の男はなぜ賽銭泥棒を繰り返したのか。

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ソープランドの職場から飛び、野宿生活をしていた被告人

男は中学を卒業し職を転々とした。その後、デパートでアルバイトを始め正社員になっている。そこで好きな女性と出会い、結婚し子どもを授かる。理由はわからないが男が原因で、その後、離婚する。

平成26年に賽銭泥棒で懲役1年執行猶予3年の判決を受けた。そして、令和4年に再び賽銭泥棒で懲役1年執行猶予3年の判決を受けている。

男は勾留を解かれ、別府のソープランドでボーイとして働きだす。しかし、雇用条件は悪く、スタッフから罵声を浴びせられることが多かった。男は少年期、父親から暴力を受けており、人から怒鳴られるとトラウマ的に逃げ出したくなる特性があるという。

令和5年夏ごろ、店を飛び、路上生活を始めた。10月ごろから気温が下がり、ネットカフェで生活するようになる。

本件は前刑の執行猶予期間が終了してから逮捕、起訴されているが、ネットカフェの支払い、食費を捻出するため、男は執行猶予期間中の令和5年9月ごろから再び賽銭泥棒を始めている。

令和8年5月9日、神社を二カ所周り、3190円を盗んだ男は自転車でネットカフェに戻る途中、巡回中の覆面パトカーに追われ、一度は逃げ切るもその後、逮捕された。

警察での取り調べで「なぜ賽銭なのか?」との問いに男は「小学生の頃から賽銭泥棒をしています。手っ取り早く金が手に入るので」と答えている。

「何も考えてませんでした」

刑務官に連れられ入廷した男は、余裕のあるジーンズにペンキをぶちまけたような模様の黒のロングTシャツ姿、長髪を後ろで一つに結び、その毛先にはモスグリーンのメッシュが施されている。一見、クラブに行けばいくらでも居そうな出で立ちの人物である。

被告人質問で男はどの質問に対しても、まるで他人事のように答える。

弁護人「刑務所に入る覚悟はありますか?」

被告人「はい。社会復帰したあとは真面目に生きていきたいなぁと」

弁護人「今後、再犯しないために必要なことは?」

被告人「安定した職と住む場所。あと自分が精神的な問題があるのか病院で診てもらいたいですねぇ。窃盗癖、依存症とかがあるのかぁと。トラウマとかも治したいなぁと」

弁護人「仕事が上手くいかない時は今後、どうしますか?」

被告人「上手くいかない時は今まで知らなかった生活保護とかも調べて受けたいなぁと」

弁護人「今まで盗みを繰り返してきた人生ですけどこれからどうしたいですか?」

被告人「今までは苦しい生活をしてましたけど、これからは自分を大事にして生きてきたいなぁと思います」

検察官「なにか公的な機関に頼ろうとは思わなかった?」

被告人「その時はなかったですねぇ。全然考えてなかったですねぇ」

検察官「前回の裁判でももうしないと約束していますよね?」

被告人「何も考えてませんでした」

法廷で被告人は決して反抗的にしゃべっていない。すがすがしいほど悪意なくしゃべっており、聞いていて不思議と嫌悪感を覚えない。おそらく本当に何も考えていないのだろう。被告人質問は裁判官に移る。

裁判官「出所後、頼れる人はいますか?」

被告人「いませんねぇ」

裁判官「家族、兄弟は?」

被告人「家族、親族とはもう疎遠ですねぇ」

裁判官「前の奥さんやお子さんとも?」

被告人「はい」

裁判官「会いたいとは思わない?」

被告人「もう思わないですねぇ」

裁判官「お子さんにも?」

被告人「会いたいとは思いますけどぉ」

裁判官「いつか、もしお子さんがお父さんに会いたいとなった時に今の状態で会えますか?」

被告人「会えないですねぇ」

祖母の話を振られ、突然の涙

裁判官が、子として、父親としての観点から立ち直りの糸口を探るが男には全く響かない。しかし、裁判官はこのあと、男の弱点を発見する。

裁判官「お父さんに暴力を受けて、あなたおばあちゃんの元で暮らしていますね?」

被告人「はい。中学生くらいまで一緒に暮らしていました」

裁判官「おばあちゃんは今、どうされてるんですか?」

被告人「…十年前くらいに母親に連絡したらもう死んでいました」

裁判官「あなた、それを聞いてどう思いました?」

被告人「悲しかったです」

裁判官「おばあちゃん、今のあなたを見たらどう思うと思う?」

被告人「…(泣き出す)。そうですねぇ…怒られると思います」

裁判官「おばあちゃん、あなたのことよく見てくれていたんでしょ?今の生活で顔向けできます?」

被告人「で、できないですね(泣きながら)」

裁判官「おばあちゃん成仏できないですよ。さっき弁護人との話にも出ていましたけど、これからどんな人生を送ります?」

被告人「こ、心を入れ替えて生きていきたいと思います」

裁判官「過去、デパートで働いて周りの環境も良くて元奥さんとも出会ったんでしょ?環境が整えばあなたはこんな事にならないと思うんですよ。あなた自身、本当は生活を立て直して暮らしていきたいと思っていると感じるんですよ」

あれほど何を言われても響かなかった男が、祖母の話になると涙が止まらなくなった。

男の人生の中で祖母は大きな存在であったのだろう。

「怒られると思います」と言った男は祖母に面倒を見てもらっていた少年時代から賽銭泥棒をしている。

検察は同種前科2犯、前歴9件を要しており常習的かつ悪質、再三更生機会がありながらの再犯であり男の犯行は言語道断とし拘禁刑1年4月を求刑した。

裁判所は男に拘禁刑10月未決勾留日数中30日をその刑に算入した実刑判決を言い渡した。

奇しくも男が涙を流した法廷では前日、路上生活を始めるきっかけとなる、男が飛んだソープランド店のオーナーが売春防止法の罪で裁かれていた。

文/田辺朋之 内外タイムス

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